マッサージを施術するには~長谷川桜子

マッサージの施術法

私たちの体はマッサージしてもらうのを喜ぶ

ネコはなでられるのが好きです。イヌはぽんぽんとかるくたたかれるのが好きです。こどもは抱きしめられるのが好きです。このように、触覚は私たちみんなにとって重要なものですが、この欲求はいつも満たされているとはかぎりません。マッサージは、安全で、エロチックでないかたちで、ほかの人に触覚を楽しませてもらえる方法の一つです。

私たちはみんな、ネコが肉体的な快楽を求めるのと同じ意味で、肉体的な快楽を求める存在ですから、私たちの体はマッサージに反応し、マッサージしてもらうのを喜びます。背中のマッサージをしているとき、マッサージしてもらっている被術者は筋肉の緊張を解き放つようにはげまされ、それによって筋肉と組織との間に生みだされたストレッチを発散させるように促されます。筋肉からこうした緊張が発散されないでいますと、そのせいで痛みが生じることがよくあります。そこで、この痛みをおさえるための薬として、パラセタモールなどの鎮痛剤がよく用いられます。

マッサージはプレッシャーへの対処療法のひとつ

「マッサージ」ということばが、長年の間、いかがわしい「マッサージパーラー」と同じような意味をもつことばになってしまっていたことは残念なことです。しかし、現在では基本となる健康の問題に人びとが立ち戻ってきたことと、今日の生活のもたらすプレッシャーにうまく対処しなくてはいけないという必要から、一つの療法としてのマッサージにたいする関心が急激に高まりをみせてきました。その結果、いまではマッサージはカイロプラクティックと整骨療法といっしょに、ちゃんとした「手を使う」療法として社会的にうけ入れられています。

アロママッサージは芳香療法家

精油を使用したマッサージは芳香療法家にしてもらうことができます。もしも、あなたが自分で家族の人びとに、また友人たちにマッサージを施したいと思う場合でも、訓練を積んだ芳香療法家の手でマッサージをうける経験をしておくのは、よい考えです。こうすれば、あなたはどんなぐあいに圧力をかけたらよいかが感じとれますし、また施術者の相手にたいする思いやりの気持ちが、被術者の心身すべてにわたる喜びにとって、どれほど大切かがわかります。

ほんらい、マッサージの技術というものは、一人の人間がべつの人間にしてやるものです。ほかの人間にマッサージを施すときには、自分がまず健やかで、エネルギーに満ち満ちている必要があります。家族の誰かがマッサージをしてほしいということがあっても自分がてんてこまいの一日をすごして疲労しきっている場合には、マッサージしてやるのを翌日にのばしたほうがいいと思います。

マッサージの基本的なルール

つれあいであっても、友人であっても、親子であっても、自分が気にかけている人間にマッサージしてやるのはすてきな体験です。マッサージを施すものにとっても、マッサージをしてもらうものにとってもそうなのです。マッサージの技術のトレーニングをうけていればいっそうよいのですが、それも絶対に必要だというわけではありません。ただ、いくつかの基本的なルールは守る必要があります。

施術者と秘術者の位置

マッサージの被術者はゆったり快適に横たわることが大切です。施術者であるあなたは、被術者の右側か左側に体をおきます。そうすれば、あなたも快適ですし、自分の腕と背中にそんなに圧力をおよぼすことなしに、自分の体重を使って相手に十分な圧力をかけることができます。マッサージ自体は、それが快適にできるところならばどこででもやれます。マッサージ用寝台があれば申し分ありませんが、それを用いることができなければ、ふつうのベッドかゆかの上で(もちろん、30分ほどもゆかにひざをつくのがいやでなければですが)でも行えます。

ビーチマットとバスタオルでもいい

ゆかにビーチマット(なかにつめものをしたマット)をおき、その上に大きなバスタオルをかけて、即席のマッサージ台をつくっておいて、その上でマッサージしたり、毛布をたたんで使用してもよいと思います。その長さと幅があなたが相手にする「患者」の身長と体の幅にあっているかどうかを確かめて下さい。被術者の頭の下に小さい枕をおき、おなかの下にはふつうの大きさの枕を入れます。とてもふとった人だったら、おなかの下の枕はいらないでしょう。

必要なものは用意しておくこと

そして、あなたが必要になるものをぜんぶ用意してあるかどうかを確かめましょう。つまり、マッサージオイル、ティッシュペーパー、それに被術者を温かくしておくためのタオルです。マッサージをしているとちゅうで気がついて、マッサージを中断して何かをとりにいったりするのは望ましくないからです。

手の温度は重要

俗に「手が冷たい人は心が温かい」などと申しますが、誰かにマッサージを施すときには、あなたの心の温かさ以上にあなたの手の温かさに心を配る必要があるとはっきりいうことができます。手が冷たいというのは、ただ配慮に欠けているということなのです。ですから、手が冷たかったら、マッサージを行う前に、まず両手を5分ぐらいお湯にひたすようにして下さい。両手をこすりあわせると、てのひらがある程度温かくなりますが、そうしても、温かい背中にその手をあてても被術者は温かいとは感じないものです。

両手全体にオイルをむらなくつけてからマッサージする

被術者の背中にびんからだしたばかりのマッサージオイルを直接たらすようなことは決してしないで下さい。そんなことをすると、体がショックをうけてしまうからです。いちばんよいやりかたは、片方のてのひらに適量注いでから両手をこすりあわせて、両手全体にオイルをむらなくつけます。そして、その両手を「患者」の背中にあてて、背中全体にオイルをいきわたらせて下さい。両方のてのひらを平たくし、各指を被術者の頭の方向にむけて、ヒップのところに両手をあてます。そして、両手をスムーズに、しかししっかりと脊柱にそってスライドさせていき、各指がうなじのところにつくまで手を進めます。

エフルラージュはゆっくりと

つぎに、両手をそれぞれ肩のところで左右に動かしていって、背の両側を下っていき、スタートした点に戻ります。この動作をエフルラージュといいますが、これは最低でも10分はかけて、全体をひとつながりの動作として行うようにして下さい。それから、両手の親指でしっかりと圧力を加え、ゆっくりともう一度、両方の親指を脊柱の両側におきながら、両手を背中から肩へとのぼらせます。どこか痛む個所があったら、その痛いところの上を親指の腹で円をえがくようにしながら数分間こすります(親指の先端は決して用いないで下さい。そんなことをすれば、あなたのつめのせいで「患者」に不快な思いをさせてしまいます)。そして、さらに5分から10分ほどかけてもう一度エフルラージュをして体を鎮静させ、リラックスさせて、このマッサージを終えます。それから、背中をキッチンロールペーパーでおおって上からかるくおしてよぶんなオイルをとりのぞき、最後に大きいバスタオルで「患者」の背中をおおい、少なくとも5分うつぶせにさせておいてからおきあがらせて下さい。人によっては、リラックスしたあまり、眠りこんでしまうこともあります。

元気をつけるマッサージオイル

(1)
ローズウッド油 17滴
オレンジ油 6滴
ゼラニウム油 2滴
これらの精油をいっしょに50ミリリットルのキャリアオイルに加えてできあがりです。

(2)
ローズマリー油 12滴
クラリセージ油 9滴
マートル油 4滴
これらの精油をいっしょに50ミリリットルのキャリアオイルに加えてできあがりです。

リラックスさせるマッサージオイル

(1)
ラベンダー油 13滴
ゼラニウム油 2滴
サンダルウッド油 10滴
これらの精油をいっしょに50ミリリットルのキャリアオイルに加えてできあがりです。

(2)
ゼラニウム油 10滴
ラベンダー油 10滴
マージョラム油 5滴
これらの精油をいっしょに50ミリリットルのキャリアオイルに加えてできあがりです。

マッサージの注意点

まず最初に医師と話しあってからでなくては、ガンになっている人にマッサージをしてはいけません。また、急性の感染症にかかった人、重症の心臓病になっている人、たっぷり食事をしたばかりの人には決してマッサージを施さないで下さい。静脈瘤ができているところをマッサージするのも禁物です。脚をマッサージするときには、いつも下から上へ、心臓にむかって行うことです。

妊娠している女性は背中のマッサージをすると体によいものですが、こうした女性はうつぶせに寝ることができませんので、横むきに体を横たえる必要があると思います。そして、必要なときには小さい枕を使用してその体を支えるようにします。

精油を使って、粘膜をマッサージすることはおすすめできません。デリケートな部分に用いても安全だと絶対に確信できる場合はべつとして、精油をごく薄く稀釈してあってもだめです。